文部科学省「全国学力・学習状況調査」結果公表について

教育
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7月29日(月)読売新聞オンラインにより「全国学力・学習状況調査」の結果が、下の記事のように配信されました。曰く、「中学校国語の平均正答率が19年度以降最低」。曰く、「「読む」技能を測る問題で正答率が低く、必要な情報を読み取る力に課題」。曰く、「SNSや動画視聴を行う時間が長いほど、正答率が低くなる傾向が全教科で」。先にお詫びしておきます。すみません。「まあそうだろうな」というのが正直な感想です。けっこういろいろな突っ込みどころがあります。あくまで私の個人的な「感想」にすぎませんので、異見をお持ちの人も当然いるでしょう。

記事より

こんな記事でした。

SNSや動画視聴長いほど全教科で正答率低く…全国学力テスト、中学国語の正答率は最低に

中学国語の平均正答率の推移

文部科学省は29日、今年4月に実施した2024年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。中学校の国語は平均正答率が前年度より11・7ポイント低い58・4%で、19年度に現在の出題形式に切り替わって以降、最低となった。特に「読む」技能を測る問題で正答率が低く、必要な情報を読み取る力に課題がみられた。

全国学力テストは毎年行われ、国公私立に通う小学6年と中学3年が対象。今回は約190万人が国語と算数・数学の2教科を受けた。

中学国語では、「話す・聞く」「読む」「書く」の技能別で、「読む」の正答率が最も低い48・3%となり、前年度比で15・7ポイント下がった。「話す・聞く」は59・1%、「書く」は65・7%だった。問題形式別では、記述式の正答率が46・1%と低く、無解答率が14・8%に上った問題もあった。

文科省は「難易度は年によって変わるので過去の成績と単純比較できない」とした上で、「子どもたちには多様な文章に触れさせることが必要だ」としている。

平均正答率を教科別にみると、小学校の国語は67・8%(前年度比0・4ポイント増)、算数は63・6%(同0・9ポイント増)。中学校の数学は53・0%(同1・6ポイント増)だった。都道府県別の成績では、小中ともに秋田や東京、石川、福井などが上位に入った

同時に実施された児童生徒に生活習慣などを尋ねるアンケート調査とテストの結果を分析すると、スマートフォンなどでSNSや動画視聴を行う時間が長いほど、正答率が低くなる傾向が全教科でみられた

中学国語では、1日あたりのSNSや動画視聴などが「30分未満」と答えた生徒の正答率は63・9%だったが、「4時間以上」の生徒は51・6%で、12・3ポイントの差が開いた。

引用元:https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240729-OYT1T50301/

スマートフォンの使用時間と平均正答率の関係について

記事では、「スマートフォンなどでSNSや動画視聴を行う時間が長いほど、正答率が低くなる傾向が全教科でみられた」とまとめられています。

あえてくどいことを言うと、これは、小学校・中学校、国語・算数(数学)の調査結果全体に認められた「傾向」です。必ずしも、「スマートフォンの使用時間」と「中学国語の正答率」の間に正しく因果関係が認められると述べているわけではありません

記事にもあるように、中学国語で、「1日あたりのSNSや動画視聴などが「30分未満」と答えた生徒の正答率は63・9%だったが、「4時間以上」の生徒は51・6%で、12・3ポイントの差が開いた」という部分は、調査結果に事実として正しく表れていますが、記事が触れていない部分を同じ条件により比較した場合、小学校国語では「71・7→59・4」(12・3ポイント差)、算数で「69・2→53・2」(16・0ポイント差)、中学数学では「61・8→43・3」(18・5差)という結果になっています。

何も「中学国語」の正答率が目立って不良というわけではありません。記事タイトルにあるように「スマートフォンの使用時間が特に中学国語の正答率に与えている影響が顕著である」と言わんばかりの記事執筆者の説明はやや正当さを欠くように思われますが、いかがでしょうか。

なお、発表されている「調査結果」では、(参考)として、「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2022)においても、日本もOECD平均も、SNSやデジタルゲームに費やす時間が一定程度を超えると、3分野(数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシー)の得点は低下する傾向が確認されている」という但し書きが添えられています。これも単に「そういう傾向がある」と述べているだけで、「SNSやデジタルゲームに費やす時間」と「3分野の得点」との間に〈原因/結果〉の関係があると明言してはいません。

まあ、SNSやデジタルゲーム、動画視聴に1日「4時間以上」というのは、さすがに「いかがなものかな」とは思います。ちなみに令和6年の中学校3年生は17・9%が「4時間以上」だそうです。

一日は、老若男女問わず、誰にとっても、ふつう平等に24時間。睡眠時間を6時間(これも短いとは思いますが)とすれば、残りは18時間。平日なら学校に行っている人が多いでしょうから、午前8時から15時、部活動をしているとすれば帰宅は17時を過ぎるでしょう。残りは9時間。食事や入浴の時間もありますし、家族とのコミュニケーションの時間も大切です。

スマートフォンを4時間いじるとすれば、残り時間は3、4時間といったところでしょう。3、4時間でも、机に向かうことができればいいですが、なかなかそういうわけにもいかない、宿題を片付けるだけで精一杯だというのが、世の中多くの中学生の本音ではないでしょうか?

学習指導要領の内容別に見た平均正答率

記事では、「中学国語では、「話す・聞く」「読む」「書く」の技能別で、「読む」の正答率が最も低い48・3%となり、前年度比で15・7ポイント下がった」とまとめられています。

「調査結果」は、次のように書かれています。

  • 知識および技能 (1)言葉の特徴や使い方に関する事項(3問)59.5%
            (2)情報の扱い方に関する事項(2問)   59.9%
            (3)我が国の言語文化に関する事項(1問) 75.7%
  • 思考力、判断力、表現力等 A 話すこと・聞くこと(3問)  59.1%
                 B 書くこと(2問)       65.7%
                 C 読むこと(4問)       48.3%

今さらですが、「中学校学習指導要領」で国語の学習内容が「表現+理解+言語事項」から「話すこと・聞くこと+書くこと+読むこと+言語事項」のように改変されたのは、1998(平成10年)のことだったように思います。改訂時の文部科学省も、「決して「読むこと」を軽視したのではない」と言うにちがいないと思いますが、中学校の国語の先生方の(決して少なくはない)一部が、「読むこと」より「書くこと」さらに「話すこと・聞くこと」が優先されるのか、というような「誤解」に導かれてしまったというのも、事実としてなかったとは言えないと想像します。

なお、現在の「中学校学習指導要領」(2017(平成29)年告示)は次のようになっています。

第2章 国語科の目標および内容

第2節 国語科の内容

1 内容の構成
国語科の内容は,〔知識及び技能〕及び〔思考力,判断力,表現力等〕から構成している。今回の改訂では,国語科において育成を目指す資質・能力を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理し,そのうち「知識及び技能」の内容を〔知識及び技能〕として,「思考力,判断力,表現力等」の内容を〔思考力,判断力,表現力等〕として示している。なお,「学びに向かう力,人間性等」の内容については,教科及び学年の目標においてまとめて示すこととし,内容において示すことはしていない。

〔知識及び技能〕の内容は,「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」,「(2)情報の扱い方に関する事項」,「(3)我が国の言語文化に関する事項」から構成している。

〔思考力,判断力,表現力等〕の内容は,「A 話すこと・聞くこと」,「B 書くこと」及び「C 読むこと」からなる 3 領域の構成を維持しながら,(1)に指導事項を,(2)に言語活動例をそれぞれ示すとともに,(1)の指導事項については,学習過程を一層明確にして示している。したがって,(2)に示している言語活動例を参考に,生徒の発達や学習の状況に応じて設定した言語活動を通して,(1)の指導事項を指導することは,これまでと同様である。

なお,資質・能力の三つの柱は相互に関連し合い,一体となって働くことが重要である。このため,この内容の構成が,〔知識及び技能〕と〔思考力,判断力,表現力等〕を別々に分けて育成したり,〔知識及び技能〕を習得してから〔思考力,判断力,表現力等〕を身に付けるといった順序性をもって育成したりすることを示すものではないことに留意する必要がある。

引用元:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_002.pdf

「話すこと・聞くこと」が最優先、「書くこと」がその次、「読むこと」は後で、というような「誤った思い込み」を先生方が持ってしまっていたとしたら、読解力を高めるための指導が「後回し」になってしまうのも仕方がないことかもしれません。「読むこと」の指導の充実をはかり、「子どもたちには多様な文章に触れさせることが必要だ」、などと今さら言われても、そのような先生方には、表現は悪いですが、「裏切り」のように響いてしまうのではないかと思います。

また、記事の中で「話・聞・書・読」というの順序を「話・聞・読・書」と替えているところに、執筆者の意図のようなものを感じると言ったら、意地悪が過ぎるでしょうか。

文部科学省「難易度は年によって変わる」とは?

令和6年度の「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)は、国語、数学(算数)の2教科で実施されています。毎年まったく同じ問題で実施するわけにはいかないのですから、特に国語で難易度に差が生じるのはある程度仕方のないことだと私も思います。

ですが、たとえば「大学入学共通テスト」だったら?

「大学入学共通テスト」の問題難易度に、実施年度により著しい差異が生じたとしたら、全国の受験生に大打撃を与えます。受験生だけでなく、その保護者、学校関係者、塾や予備校などから、苦情の大暴風が巻き起こるでしょう。「共通テスト」の作題にはそれだけの慎重さが要求されるのです。そもそも問題の作成は、全国の国公私立大学から派遣された、各科目10~20数名の先生方が委員となって行われています。また、点検についても、高校関係者による難易度・出題範囲の点検、作問経験者らによる構成・内容・解答などの点検、教科を横断した整合性や重複の点検など、それぞれ別個に設けられた委員会によって行われます。さらに、必ずしもそのためというわけではないかもしれませんが、「共通テスト」実施後には各教科模範解答とともに平均得点が発表されることは、新聞を購読している人なら大抵ご存じでしょう。これはおそらく高等学校の入学者選抜試験についても同様だと思われます。

翻って「全国学力テスト」はどうかというと、作題、点検について、いつ、どこの誰が、どのようにして行うのか、必ずしも明確に示されていません。出題に対する検証についても同じです。私が見つけられなかっただけなのかもしれませんが。

「大学入学共通テスト」の受験者は毎年約50万人であると言われています。

「全国学力・学習状況調査」の受験者は、令和6年度は小中で約190万人、中学校のみで約90万人です。ご存じの通り今後は減少するはずですが、小中を分けても、「共通テスト」の2倍近い人数が受験します。上級学校の入試に連続するわけではないというのは確かにそうでしょうが、現実問題として全国で実施され、調査結果が発表され、あまつさえ県ごとのランク付けが行われるのであれば、「難易度は年によって変わるので過去の成績と単純比較できない」という文部科学省のコメントは、少なくとも責任感に少しく欠けるところがあると感じざるを得ません。

まとめ

7月29日(月)文部科学省から、四月に実施された「全国学力・学習状況調査」の結果が発表されました。読売オンラインの記事を読んで、特に中学国語に対してやや当たりが強いように感じられましたので、個人的な感想を一つ二つ述べました。中学校だけでなく、また国語だけでなく、学校の先生方は日々激務の中にあります。児童生徒学生に対するだけでなく、保護者や社会に対しても、重い責任を背負っていらっしゃいます。そうした先生方へ、小さな声ではありますが、応援の声をお届けしたいと思いました。中には不適切な行為に走る者もいますが、先生方には、厳しい現実に負けることなく、これからも真摯に誠実に、職務をまっとうしてくださることを願っています。

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